呼吸不全の話 その④  〜呼吸不全とリハビリ〜

呼吸

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【看取りのセラピスト/ティザーPV第二弾】

沢尻悠はすっと息を吸い込む。そして自分が先ほど坪井咲夜にかけた言葉を思い出す。それはたった一言だったけれど、言葉は決して取り消せない。

山吹 薫
山吹 薫

呼吸不全について話してきたが、まず最初に言っておくのは、呼吸不全状態だからといって良くイメージされる運動療法が選択される事は病態にもよるが少ないという事、そしてだからと言ってリハビリテーションで何もしないという訳では無いという事だな。

沢尻 悠
沢尻 悠

そうだね。最初は不安に思うかもしれないけれど、まずは呼吸を楽にするためにリハビリテーションを行う。まぁリハビリって言うより呼吸器のケアに近いかもしれないけれど、それはとっても重要な事だね。

進藤 守
進藤 守

そうだな。まずは安静にしている時に呼吸が楽にならない事には、それだけでエネルギーを消費する。楽な呼吸にならないと呼吸筋が過度に疲労し、呼吸運動自体が破綻するかもしれないからな。

全くこの二人はと沢尻は山吹薫と進藤守を眺める。しかし今はその気遣いは正直有り難かった。

山吹 薫
山吹 薫

殆どの場合初回介入時には酸素療法、もしくは人工呼吸器で呼吸は保たれている事が多い。そしてそこから呼吸不全に至った原因に対して治療は成される。そしてその治療を奏功させる一因に合併症予防がやはり必要だ。そしてそれに呼吸を楽にするための姿勢を作る事がまず必要になる。

進藤 守
進藤 守

そうだな。一見ずっと寝ている方が楽に思えるが、呼吸不全の要因に換気血流比があるだろう?寝ていると背中の方に血流は行くが、ベッドに押されて肺は動かず酸素が十分に入らないことも多い。よって結果として体を起こした方が換気血流比の改善につながることも多い。簡単にいうとベッドに押されて空気が入らない部分をしっかりと解放して、肺全体に十分に酸素が満ちるようにするという事だな。

沢尻 悠
沢尻 悠

そうだよね。肺に十分に空気が満ちて、空気の出入りが増えると結果として肺炎を遷延させる痰も出やすくなる。それに空気をたくさん吸って咳が出来るね。

臨床で長く働いていると、セラピストとしての思考が当然働く。そして一過性の麻痺のように人としての思考が鈍る事もある。なぜ坪井にあの時に嘘でも大丈夫と声を掛けられなかったのか。沢尻は一度首を振る

進藤 守
進藤 守

そして腕の重みもまた問題になる。腕は胸郭に着いている訳だから体を起こす時、もしくは寝ている時でもその重みで胸郭の運動は阻害される。よって結果的に換気が十分に出来ない事もまぁある。

山吹 薫
山吹 薫

それには腕の下にクッションを置いたりする事が単純だけど有効だ。ベッドを上げて、クッションを胸郭の動きを邪魔しない程度に抱いて、呼吸の練習を行う。とくにCOPDの急性増悪の場合にはゆっくりと息を吐き切る事を指導する事が重要だ。

沢尻 悠
沢尻 悠

動的肺過膨張だったね。COPDのように気道や肺胞が障害されていると息を吐き切る前に、肺胞が酸素を出し切る前にその先の道が潰れてしまう。吐き切らないのに息を吸う練習ばかりしたら肺胞の中に過剰に空気が溜まって膨張してしまう。だったね。

山吹 薫
山吹 薫

そうだな。そして胸郭自体が硬く、肩甲帯もまた固まっている事が多い、呼吸筋のリラクゼーションと共に肩周りの可動性を確保する事もまた呼吸を楽にするために重要な事だよ。

相手の望んでいる言葉を吐くよりも、どこか中立的な冷静な発言をしてしまう。それは臨床で働く限り必要な事かもしれない。だけどそれはあくまでセラピストであっての話だと沢尻は思う。

山吹 薫
山吹 薫

そして例え人工呼吸器をつけていたとしてもそこから座る、端座位や車椅子に座る練習を行う。それは肺自体をしっかりと動かし換気障害を軽減し、換気血流比を改善させると言った意味合いで行われる。体力作りではなく、あくまで合併症予防としてだな。

進藤 守
進藤 守

それに加えて循環動態もまた変化する。よって原因にもよるが、呼吸器の合併症予防、換気や血流比の改善を目的としながら、その原疾患のモニタリングもしっかりと行う。合併症予防でも体を動かすわけだから、運動時のモニタリングを行う。

沢尻 悠
沢尻 悠

確かに多くの治療は安静時のデータを基準に行われるから、オレらは運動時をモニタリングし報告する必要があるからね。そこは絶対に必要な情報共有だね。

それでも全てを完璧にするのは難しい。それは自分たちも人だから。それに過去には戻る事は出来ない。どうやっても。

山吹 薫
山吹 薫

他にも自分で咳をして、痰を出す練習や病態に合わせた呼吸の練習もまた重要だ。座位が難しくてもベッドの頭を上げておく、そして姿勢が崩れないようにポジショニングを行いそれを病棟と共有する。個人的にはだがその連携の有無で予後も大きく違うと思う。

進藤 守
進藤 守

そうだな。それにその原因が誤嚥性肺炎であってもなくても、挿管していてもしていなくても口腔内のケアは必要だ。汚染はもちろんだが乾燥していても痰が詰まりやすくそして出し難い。それに呼吸数の増加に伴いムセやすく状態によっては、気管へとタレ込んで新たな肺炎の発症へとつながる。それは防がなければならない。

沢尻 悠
沢尻 悠

なるほどね。でもどんな状況でもオレらもやる事はあって、出来る事も多いって事だね。うん・・・まだ出来る事は多い。

その言葉を沢尻はゆっくりと飲み込む。誰にでもない、自分に言い聞かせるように。

山吹 薫
山吹 薫

そして呼吸状態の安定を見つつ、普段のリハビリへと移行する。その後の生活も含めて検討しつつな。多くはその時点で多少なりと廃用はしているから過負荷には注意だな。よく患者様を見て運動を提供する。もちろん原疾患のモニタリングも継続する。

進藤 守
進藤 守

個人的にはだが、離床を過負荷に注意し積極的に進んでる患者様は良くなるよ。もちろんそれが出来る状態だからっていうのもあるけれど、俺ら医療従事者がまず尻込みしては何も変わらない事も多いしな。

沢尻 悠
沢尻 悠

まぁ言いたい事は分かったけど・・・オレを慰める他に良い方法は思いつかなかった訳かな?

なんの事だ?と笑みを浮かべる二人から視線を外し、沢尻悠は立ち上がる。でも・・・ありがとう。そんな言葉は呑み込んで。

過去は変えられないだけどもそれから先は変えられる。そんな当たり前な言葉を思い浮かべながら、坪井咲夜の母が無事であるよう。心底そう祈った。

山吹薫の覚え書 54

・運動療法の前にまずは安静臥位のポジショニングから行い、状態に合せて合併症予防の為の離床を進める。

・原疾患のモニタリングも忘れない。

・全く困った後輩だ。

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

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